プリテンダー
夕方になり、閉園時間を知らせるアナウンスが園内に鳴り響いた。

杏さんは少し名残惜しそうにしている。

「閉園だって。そろそろ帰ろうか。」

僕がそう言うと、杏さんは観覧車を見上げた。

「あれ、乗れなかった。」

「うん…そうだね。また今度来た時に乗ろう、一緒に。」

「…うん。」

僕は杏さんの手を引いてゲートに向かう。


ごめんね、杏さん。

観覧車には乗りたくなかったんだ。

ゴンドラの中で二人きりになると、きっと杏さんは元の上司の杏さんに戻ってしまうと思ったから。

今日だけは、僕の前で無邪気に笑う恋人の杏でいて欲しかった。

杏さんの部下で偽物の婚約者の僕がそんな事を思うなんて厚かましいけど、なぜだか僕は、そう思った。



手を繋いだ帰り道、杏さんは嬉しそうに笑って楽しかったと小さく呟いた。


僕も楽しかったと言うと、杏さんはまた照れ臭そうに笑った。





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