プリテンダー
視界がぼんやりとにじんで、僕は慌ててそれを隠すようにうつむいた。

日本酒を飲んでいた矢野さんが怪訝な顔で僕を見た。

「…どうした?」

「ちょっと…。」

ごまかしきれない想いが涙になって、僕の目から溢れた。

「泣きたいほどつらい事でもあったか?」

「つらいって言うか…。」

僕は手の甲で涙を拭って日本酒を一口飲んだ。

「気付いたってどうにもならない事もあるんだなって。」

「…なんだそれ。」

矢野さんはよくわからないと言いたそうな顔をして、揚げ出し豆腐を口に入れた。

「そういえば…気になる噂ってなんですか。」

僕が尋ねると、矢野さんは眉間に少しシワを寄せた。

「昼休みにな…人事部の子と広報部の子が話してるの聞いたんだけど…。」



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