プリテンダー
美玖が僕を好きじゃないってわかってたら、2年も付き合ったりしなかった。

あの笑顔の裏で僕の事を、地味でつまらない男だと思ってると知ってたら、こんな別れ方をしなくても済んだかも知れないのに。

「派手で面白い男ってどんなだよ…。」

少なくとも美玖が好きなのは、彼女にフラれてやけ酒をして、上司や先輩相手にくだを巻くような男ではないんだろう。

僕とはあまり積極的にセックスをしたがらなかったくせに、あの男とはあんなに楽しそうに笑ってラブホテルから出てくるんだもんな。

そんなにあの男とのセックスが良かったのか?

それともやっぱり僕のすべてがつまらなかっただけ?

もしかしたらもっとずっと前から、僕以外にも男がいたのかも知れない。

誕生日プレゼントにブランドバッグもらったら用済みになって、僕とは会う必要もなくなったってか?


何もかもが虚しくなって、グラスの水割りを一気に飲み干した。

矢野さんは小さくため息をついて、グダグダになっている僕の肩を叩いた。

「鴫野、おまえの腹立つ気持ちはわかるけどな。今日はもうその辺でやめとけ。またいつでも付き合ってやるから。」

「何言ってるんですか…。まだ飲みますよ、僕は…。」

「ダメだ、今日はもうおしまい。帰るぞ。」



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