プリテンダー
さよならプリテンダー


僕は今、今すぐにでも消えてしまいたい気持ちをなんとか抑えながら、杏さんと向かい合っている。

ドキドキともビクビクとも取れない変な緊張感に押し潰されそうだ。


あの後、僕とばあちゃんは、有澤社長と杏さんと共にリムジンで有澤邸に連れて来られた。

車内でも僕は顔を上げる事もできず、杏さんになんと言えば良いのかをただひたすら考え続けた。

だけど結局、その答は出なかった。


有澤邸に着いてまずは、応接間の大きなソファーに座って、熱い紅茶をいただいた。

おそらくものすごく高級な茶葉を使って淹れた紅茶なんだとは思うけど、僕は緊張のあまり味がよくわからなかった。

お茶をいただきながら、ばあちゃんは久しぶりに会う杏さんのお祖母様とお母さんと一緒に、おしゃべりに花を咲かせていた。

すると杏さんが、僕のシャツの袖をツイッと引っ張った。

「ちょっと…いいか?」

杏さんはそう言って、僕を自分の部屋へと案内した。

杏さんは今、この部屋で生活しているんだ。

どことなく雰囲気が、ほんのしばらく一緒に暮らしたあの部屋に似ている。



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