リナリア
王子様の作り方
* * *

 9月と言えば文化祭だ。今日はそこで何をするかについての議論がなされている。

「体育館の抽選には負けたので、演劇系はできません。」

(…今年はどこがとったんだろ、体育館。)

 去年の演劇を行うクラスのポスターは依頼されて名桜が作った。今年はそれのせいもあってか、もうすでに数件ポスター作製の依頼が入っている。

「なーお!」
「ん?」
「名桜は案ないの?」
「私?…うーん…自由時間が多いのがいいな。当日、少し自由に動きたいし。」

 そういう意味でこのクラスが演劇狙いで体育館の抽選に挑んだことを応援していたのだが、抽選に敗れてしまったのでは仕方がない。代案と言われても定番の喫茶系が思い浮かぶばかりだ。喫茶系は拘束時間が長くなるし、接客は得意とは言えないためできれば裏方がいい。

* * *

「当日、知春は来れるんだっけ?」
「一般開放の日は無理だけど、内部だけの日は来るよ。」
「つーことは、知春をキャスティングしてもいいっつーことだよな?」
「…あのね、普段の練習にどれだけ参加できるかわからない人をキャスティングするなんて危なすぎるでしょ。」
「いやでもお前、プロだし。」
「…そうでもないよ。」

 知春のクラスはというと体育館を取得してしまっていた。つまりは演劇系で決定だ。

「演目は投票の結果、シンデレラになりました。あとは役ですが、役も全員の投票で決めていいですか?」
「えっ?」
「知春も当日出れるらしいから、知春に投票してもいいぞー!」
「たく!いやあの、ランダムで休むからメインはきついと思うけど、脇役でいいなら…。」

(いやいやいや、知春が脇役にいたって観客はほとんど知春見ることになるっつーの。)

 おそらく拓実が思ったことをクラスの大半が思っただろう。投票はあっさりと行われ、黒板を使っての公開集計だ。特にすることもないので、知春は自分の手を見つめた。自分よりもはるかに小さくて頼りない手が、大人と対等に仕事をしている。控えめに握り返された瞬間に少しだけ苦しくなった心はきっと、嘘じゃない。
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