リナリア
「え…?」

 知春が笑顔で両腕を開いている。

「…ど、どういうことですか?」
「飛び込んでこれる?」
「む、無理です!」
「即答。」

 無理だといったのに知春は楽しそうだ。

「な、なんでそんな笑顔なんですか!」
「悩むことも多いし、台本見てうわって思うこともたくさんあるんだけどね。」

 知春がゆっくりと距離を詰めてくる。そして名桜の手がそっと取られる。

「このまま引っ張るけど、力入れないでそのままポンッと俺に身体預けてくれる?」
「…わかりました。」

 その言葉通り、控えめに腕が引かれる。

「握った手っていつ離せばいいんだろう?離さないと背中に手、回せないよね。」
「ひ、引っ張って私の身体が傾いたらもう離していいんじゃないですか?」
「そっか。じゃあもう1回。」
「は、はい。」

 目が合えばこの前のように緊張してしまう気がする。名桜は俯いたまま離れる。その腕はもう一度引かれ、今度はすぐに背中に腕が回った。

「力加減ってこれくらいで合ってる?苦しくない?」
「全然苦しくないです。」
「…そっか。じゃあ、たとえば告白が成功した後だとすると、この抱きしめ方じゃ足りないね。」
「…そう、なりますね。」
「ちょっと強くしていい?」
「はい。」

 ぎゅっと強まる腕。名桜の肩に下りてきた知春の頭。名桜はそっと、抱きしめ返す。

「え…?」
「あ、手、下ろした方がいいですか?両想いなら、抱きしめられたら抱きしめ返すかなって…。」
「いや、名桜が正解だと思う。もう少し強くできる?」
「こう、ですか?」

 腕に力を込めてみる。距離がどんどんなくなっていくのを感じる。心拍数がダイレクトに伝わってくる。
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