リナリア
海と花の叫び
* * *

 文化祭まで1週間というところまできた。いよいよ、スパートをかける時期になってくる。名桜のクラスは無難にお化け屋敷になった。

「あれー名桜は?」
「なんか撮影行った。」
「ふーん?」

 七海はそっと、蒼の隣に腰を下ろした。

「蒼、担当の時間、どうするの?」
「んー…特に希望はねーけど。七海は?」
「…何にも、考えてない。」

 そんなの嘘だった。ここのところ、七海はずっと考えている。背中を押すべきかどうか。蒼が後悔しないようにするべきなのか、それとも自分が後悔しないようにするべきなのか。
 何も考えていないように見えるこの男は、一体何を考えているんだろう。

「ん?」

 バチっと目が合う。ちょっと真剣に作業をしていた横顔がかっこよく見えたなんて言えない。

「蒼は能天気で羨ましいなーって話。」
「いきなりなんだよ。喧嘩ふっかけられてんの?」
「べっつにー。」
「何かあった?最近ぼーっとしてる時間多くね?」

(…ばれてた。名桜のことばっかり見てるくせに。こういうところがずるいんだよなぁ。)

 ばれていたことが嬉しくもあり、悔しくもある。自分がこうして諦めきれずにずるずると思い続けているのは、ほとんど蒼のこういう態度のせいだと、もっと吹っ切ることができたときに本人に言ってやりたい気持ちがある。

「…ちょっと考え事してただけ。」
「ま、なんか悩んでんなら言えよ。どうせすーぐ抱えきれなくなるんだからな。」
「…大丈夫だし。」

 何度飲み込んだのだろう。全部全部、あんたのせいなんだけど、という言葉を。
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