リナリア
今思い描く将来
* * *

 吹きすさぶ風が頬を冷たくしていく。そんな中、名桜は知春に貰ったマフラーに半分を顔を埋めつつ、足早にスタジオに向かう。今日は映画の撮影最終日ぶりに、知春、そして彩羽に会う。会うというよりは、二人の撮影が中心だ。
 3月に公開予定の映画の雑誌の撮影が軒並み始まる時期になった。雑誌の種類によってはもう少し前から撮影やインタビューが始まっているようだ。その一つの仕事が名桜の父に回ってきた。名桜がカメラを握るわけではないが、久しぶりに二人の撮影を見れるということで、名桜は見学の許可を取っていた。

「お疲れ様です。」
「あっ、なっちゃんだー!久しぶり!」
「彩羽さん!」

 丁度休憩中だったのか、椅子に座ってひらひらと名桜に手を振っている彩羽はにっこりと笑っていた。

「なっちゃん、制服だー!」
「あ、はい。あの期末試験が近いので…今日は見学です。」
「うわ!そっかー高校生っぽい!」
「ぽいんじゃなくて、高校生なんですよね、俺も名桜も。」

 名桜の後ろから、メイクが終わった知春が出てきた。白いニットのセーターに黒いタイトなパンツで、白いニットは彩羽とお揃いになっている。ロングスカートがワインレッドで、彩羽の方は映画の役柄よりも大人っぽい印象に仕上がっている。

「知春さん、お疲れ様です。」
「お疲れ様。名桜の制服姿、なんか久しぶりに見る。」
「同じ学校なんじゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、学校で遭遇すること、最近なかったですもんね。」
「うん。」

 知春が頷くと、彩羽がニヤッと笑った。

「そっかそっかぁ。学校で遭遇とかもあったのかぁ。いいねぇ、青春だねぇ。」
「…彩羽さん、おじさんみたいですね。」
「こんな美少女捕まえて何言ってんの!?ちーちゃん、目おかしいんじゃない?」
「彩羽さん、撮影ですよ。頑張りましょう。」
「うんっ!」

 彩羽はすっと立ち上がった。そしてくるりと名桜の方を向く。

「では久しぶりに『杏』と『大和』、いってきまーす!」
「はいっ!楽しみです。」

 二人が別の二人になる瞬間を再び見れる。そのことが名桜の好奇心を膨らませた。
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