リナリア
* * *

(…全員、表情が硬いなぁ…。どうしよう…。)

 安田の助言を受けながら動いてもらってはいるものの、肝心の表情が芳しくない。緊張している、というのがありありと伝わる。

「ちょっと休憩しましょうか。」

 名桜が声をかけると、空気が一瞬で柔らかくなった。張り詰めた空気を作っていたわけではないつもりだったが、初めての仕事で緊張する気持ちはとてもよくわかる。

(…どうしたら気が抜けるかなぁ…。)

 名桜はスケジュール表を見た。知春が来るのは17時。今は14時。まだ時間は十分にある。

「八木さん。」
「ん?」
「スタジオ撮影じゃないとだめですか?」
「え?どうして?」
「彼女たち、外に連れ出してもいいですか?今日、天気もいいですし。服は汚さないようにします。」
「いいけど、じゃあちょっと紫外線対策させないとだからちょっと待ってくれる?」
「もちろんです。お手間をかけて申し訳ありません。」
「いやいや、あの表情と動きが硬いから名桜ちゃん、気になったんでしょ?」

 名桜は静かに頷いた。バレバレである。

「私、安田さんにお願いしてくるので、モデルさんの準備ができたら声を掛けてください。」
「うん。よろしくね。」

 なるべく大人の目を減らして、もっと自由に動けるところにする。近くに花が綺麗な公園があったはずだ。そんなに遠くはない。そこまでの道のりに、クレープとタピオカの店もある。そこで買い食いなんてどうだろうか。とにかく、リラックスできそうなネタになるものは全て詰め込んでみる。今の名桜にできる、思いつく限りのことをリストアップしていく。
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