リナリア
「伊月くんと同じ学校だったんだって?」
「あ…はい。偶然。」
「すごい偶然だよね。」
「…学校で話しかけられたときはどうなることかと…。」
「そりゃそうだ。大丈夫だった?」
「その日以降は会ってないので…大丈夫かと。」
「そっか。でも何か困ったことがあったら言ってね、いつでも相談乗るから。」
「ありがとう…ございます…。」

 いつも名桜に優しくしてくれるのは、同じスタジオで働く安田だ。服の見せ方のアドバイスが上手く、読者モデルの撮影には大体付き合ってもらっている。人あたりもよく、ほめ方も上手い。

(安田さんに迷惑かけるわけには…いかない。)

 近くにあった水をぐいっと飲んで、名桜は仕事用のカメラを首に掛けた。丁度その時、ドアの開く音がした。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」

 入ってきたのは読者モデル5人だ。どの人も初めて撮影する人ばかりで、名桜を見て目を丸くする。それも当然である。ほとんど自分と年齢の変わらない人が前に立っているのだから。

「撮影を担当します、麻倉です。よろしくお願いします。」

 彼女たちを連れてきたのは、よくモデルの撮影を依頼してくれる八木だった。

「麻倉さんじゃなくて名桜ちゃんなんだね、今日は。」
「及ばずながら…私です。」
「いやいや、最近発売になった伊月知春の写真は良かったよ。」
「ありがとうございます。」

 名桜は深く頭を下げた。
 もうすでに着替えて、メイクの終わった5人に向き直り、改めて頭を下げる。

「プロっぽくなくて不安かもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。」

 精一杯やるだけだ。どんな仕事も。
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