リナリア
一方通行
* * *

「なーおーちゃーん!」

 明日から夏休み、というときに教室に現れたのは拓実だった。

「…小島さん。どうされましたか?」
「あー何その嫌そうな顔!」

 知春の姉の結婚式から早いもので2週間が経った。明日から一応夏休みだが、夏期講習はあるし仕事はあるしであまり忙しさは変わらない。

「嫌そうな顔はしてませんけど…。」
「明日から夏休みなのにテンション低くない?」
「…夏休みでも忙しさはそんなに変わらないので…。それで、何かあったんじゃないんですか?」
「花火大会行かないかなーって。」
「花火大会?」
「先輩、名桜に何の用ですか?」
「蒼?」

 名桜の横に立つ蒼の表情はいつもよりも険しい。

「なぁにー?何の話?」
「七海まで。」
「おお、はじめまして。俺、知春の友達の小島拓実です。花火大会、誘いに来ただけなんだけど、もしかして彼氏?」
「ちっ…違いますよ!何言ってんですか!」
「それ、伊月知春も来るんですか?」
「そうそう。あともう1人、女子。知春はまぁばれないようにしてもらうけど。」
「…絶対ばれると思うんですけど。知春さんのあの顔でばれないんですか?」
「案外ばれないもんだって。で、名桜ちゃん暇?」
「花火大会ってどこで、いつですか?」
「地元のやつ。川の近くでやるじゃん。あれあれ。来週だったはず。」
「3人で行かれたらどうですか?私、邪魔だと思うんですけど…。」

 同学年3人の仲を邪魔する気はない。花火大会自体は好きだが、別に一緒に行く理由もない。

「じゃあ、みんなで行こうよ。」
「はい?」
「え?」
「6人でってことですか?」

 七海の順応性の高さに、名桜は目をみはった。
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