アシスタント!!
仕事場も、首都圏近郊にある古びたマンションの一室で、


3DKの住居兼になっていた。


1階の北向の角部屋で、ほとんど陽射しは入らない。


曇りや雨の日は1日照明がいる。一応、LEDにはしているが。


三つある部屋を入ってすぐの10畳ほどの広めの部屋を仕事場にしていた。


秋口の今は小さなファンヒーターだが、冬場は石油ストーブのお世話になる。


今どき昭和人間のような変人なので、

仕事中の冷たい態度も気にすることもなかった。


それだけ真剣に仕事に取り組んでいるからこそであり、


直見の才能が認められているということだ。


むしろ若い方が、感性に付いていけず続かないと言う話も聞く。


「ウォッカ飲みたい」


「はいはい」


小さめの烏龍茶のペットボトルにストローを指し、


布のホルダーに入れたものを出す。


その辺に置いても水滴も付かずこぼれる心配もない。


「まぐろ」


「はいはい」


一口サイズの海苔巻きおむすびを出す。


「トーン38」


「はいはい」


スクリーントーンを貼る。


「ベタ」


「はいはい」


ぶっきらぼうに送られた原稿を受け取り墨で塗る。


求めているものが迷わず出てくる。


親子のような、夫婦のような、奇妙な関係に、他のアシスタントも穏やかに見守る。


直見だからこそ成せる技だ。


が、


締め切り前は戦争だ。


月3本の月間連載を抱えているので、紙を前にすると頭を切り替えなくてはいけない。


この話はこのキャラとこのキャラのこの話。と。


そのときがまさに、直見の本領発揮、即戦力だ。


コアなファンだけのことはあり、描写線、描き込みが本人と変わらない。


しかも仕事が早い。


元もと締め切りには厳しい那住だが、直見のお陰で余裕で間に合う。


遅れかけて慌てることがまずなかった。

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