人魚になんて、なれない
しばらくプールの端から端まで往復していた菊池は、急に水中に消えた。


昨日と同じことをしているんだろう。


なかなか上がってこない。


プールの底から水面を見るのが好きだと言っていた。


それが日課なんだとも。


プールの底からの眺めがどんなものか、さっぱり分からないが。


日課にするくらいなのだから相当綺麗なんだろう。


一度見てみたい、と海音は思った。


一分半ほど微動だにしない菊池。


……大丈夫なのか?


見ているこっちが息苦しくなってしまう。


ざばっと大きく波を立てて、ようやく菊池が上がってきた。


大きく肩で息をしている。


息が続く限界まで、いつも潜っているのだろうか?


……って、何を覗き見してるんだ俺は。


ふと自分の行動を振り返ってみると……


教育委員会に通報されてもおかしくないことをしている。


俺は決して破廉恥教師じゃないぞ。


海音はぶるぶると頭を振って、海音は新たな気持ちでキャンバスに向かった。
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