人魚になんて、なれない
「好きです。……人魚になりたいくらいには」


心からの笑顔でそう答えた。


人魚になりたいくらいに、泳ぐのが好きな菊池。


でも、水泳部の合宿には参加しない菊池。


昨日、ほかの部員は海へ合宿に行っているといったときの菊池は、なんだか泣きそうだった。


だから、何で参加しないんだとは聞けなかった。


「水の中にいると、落ち着くんです。前世は、魚だったのかも」


なら、海へ行けばよかったじゃないか。


菊池の言葉は、行動と矛盾しているけれど……。


俺も人のことはいえないから、その一言はいえなかった。


これ以上踏み込むのはやめたほうがいい。


菊池のためにも……俺のためにも。


「……ごちそうさま。うまかったよ。こんなうまい飯食ったの、久しぶりだ。」


それじゃと右手を上げて、俺は美術室に向かった。
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