人魚になんて、なれない
「じゃ、練習がんばれよ」


絞ったTシャツとタオルを肩にかけて、出口に向かっていく。


拍子抜けしたあたしは、そんな先生をフェンスの向こうまで見送ってしまった。


……そうだ! 着替え!


濡れたままじゃあまりに可哀想だ。


「先生! 着替えは?!」


慌ててフェンスに走り寄ると、先生が明らかに投げ捨てられたであろうボストンバッグを拾っている。


……あれは、あたしを『助ける』ために放り投げたんだな……。


ちょっと罪悪感を感じていると、先生は土を払いながら笑って。


「俺も今日から一週間、泊り込みでひとり合宿すんの。仕上げたい絵があるんだ」


だから着替えの心配はしなくていい、ということらしい。


「……タオル、後で返してくださいね?」


「ああ、そっか。悪い悪い……って、後でいいのか?」


「それ、予備のタオルなんで。早くシャワー浴びたほうがいいですよ」


返事の代わりなのか、右手を上げて先生は応えた。






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