振り向いたらあなたが~マクレーン家の結婚~
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引っ越してから一か月後、マリアンヌ達マクレーン家は、新しい土地スコットランドの生活を楽しんでいた。
もちろん大変なこともあった。
まず気候がロンドンと大部違った。ロンドンよりも寒く、風が強かった。
今は三月だから、夏になればもう少し暖かくなるだろう。こちらの地方では、ツイード織りが盛んで、タータンチェックと呼ばれる縞模様を被せたような模様の織物をクランごとに着用するのが伝統だそうだ。
マリアンヌ達マクレーン家を歓迎するために催された宴でも、一族の新しいタータンチェックを姉妹一人ずつにプレゼントしてもらった。
マリアンヌはその美しいチェック模様に魅せられ、貰ってからずっと愛用していた。寒さをしのぐため、両肩にかけたりした。
生地は暖かく丈夫で、今の時期特に重宝しそうだった。
それから、その宴には、スコットランドの伝統の料理だというハギスとショートブレッドを持ってきてくれた。ハギスは、羊の胃袋に玉ねぎや肉など色んなものを詰めて竈で焼いたものだ。
ショートブレッドは、こちらのビスケットのようなものだ。
マリアンヌは、こちらのスコットランドの大自然に段々夢中になっていった。
何と言っても空気がいつも新鮮でおいしかった。
すぐに買い物ができなかったり、人恋しくなる時もあるけど、今のところはすっかり新しい生活の方が好ましく感じていた。姉妹の中でもスコットランドに合っているように見えるのは、マリアンヌと下の妹二人だった。
一方、根っからの都会派のリリーと、情報通のメアリーは、あまり楽しんでいなさそうだった。
特にリリーは、することがないのよ、と愚痴をこぼし楽しみがなくなったから、ロンドンへ帰らせてくれと父に頼んでいた。
父もリリーの気持ちを尊重したかったが、未婚の娘を一人でロンドンに暮らさせるわけにもいかず、どうしたもんかと悩んでいるようだった。
「社交シーズンになったら、知り合いの家に居候させてもらえば」とマリアンヌが言うと、急に元気づき、「そうね。お姉さまの言う通り。
今から友人に頼み込んでおくわ。」と言い、一目散に自分の部屋へ駆けていった。メアリーはリリーほどあからさまに自分の気持ちを出さなかったが、マリアンヌはメアリーが何でも知りたがりの性格なので、この辺鄙な田舎は性に合わないだろうと思った。
メアリーはきっとその旺盛な好奇心を学問に注ぎ込むだろう。
そう言えば、ジョンはどうしているのかしら?すっかり自分のことばかり考えていたわ。
使用人たちと仲良くしているのかしら?そう思い、マリアンヌは使用人たちの憩いの部屋をのぞいた。
部屋は1階の料理室の隣にあった。マリアンヌがこっそりのぞいてみると、そこで料理人のジョアンナ婦人、サリー、そして一応執事のボーマスがいた。
彼らが、長い机で銘々の作業をこなしているのに混じって、ジョンもいた。ジョンはサリーと一緒に夕食用の豆むきをしていた。
マリアンヌは「こんにちは」と言い、顔を出した。すると、彼らはマリアンヌが表れたことを目にし、すぐに立ち上がり礼をした。
ジョンも同じようにお辞儀した。
マリアンヌはジョンの方へ目を向けて、にっこりほほ笑んだ。「お仕事中にお邪魔して申し訳ないわ。ジョンはどうしているかな?って思って。皆仲良くしている?」
「もちろんです。お嬢さま。ジョンはとてもいい子です。」とボーマスが言った。
「ジョンは飲み込むが早いんですよ。おかげで仕事が助かります。一ぺんに何人も辞められたから、一人当たりの仕事量が大変でね。」とジョアンナ婦人がやれやれと言う感じで肩をすくめた。ジョンはうまくやっているようだと、マリアンヌは思った。「ジョン、少しこっちに来ていらっしゃい。少し話しましょう。」そう言うと、マリアンヌはジョンを連れ出し、別室へ連れていった。
「ジョン、今まで構っていなくてごめんね。今まで大丈夫だった?」
「はい、マクレーン先生。大丈夫でした。」
「最初は緊張したけど、今は慣れてきたよ。」そう言うと、安心させるようにほほ笑んだ。
「そう、それは良かった。何かあったら言ってちょうだいね。」
「はい、わかりました。あのー、もしよろしければ勉強の続きがしたいのですが。」ジョンがそう言うと、マリアンヌは嬉しそうにして言った。
「まあ。うれしいわ。もちろん、またやりましょう。でももう少し落ち着いてからね。まだ家の中がごちゃごちゃしているもの。」
「はい、そうですね。僕はそれまで予習しておきます。」
「まあ、偉いわ。でも無理しなくていいのよ。あなたも新しい環境で大変だと思うから、まずは体を慣らしてからの方がいいわ。」そう言うと、ジョンと「またね」を言い、使用人部屋に帰らせた。
マリアンヌはジョンに何を勉強させようかしらと考えながら廊下を歩いて行った。
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