その背中、抱きしめて 【上】
「離れるわけないでしょ。何のための指輪?」
高遠くんが自分の右手の薬指を私の右手の薬指に当てる。
”カチン”とお互いの指輪がぶつかって音を立てた。
「不安になんなくて大丈夫だよ。俺は先輩から絶対に離れないし、もう会えないわけじゃないんだから。会う時間くらい作れるよ」
高遠くんの言葉は説得力がある。
私を安心させる力がある。
「まだインハイ予選まで2ヶ月半あるんだし、決勝は8月だよ。8月の初めまでは毎日一緒にいられるじゃん」
それは、インターハイの決勝まで行くっていう宣言。
予選敗退すれば6月に引退。
インターハイは8月初旬。
この2ヶ月の差は大きい。
「俺だって柚香先輩と毎日一緒にいたいよ」
歩きながら頭を抱き寄せられる。
「先輩こそ、勉強忙しいとか言って離れて行かないでね」
(え…?)
「離れるわけないでしょ」
涙がこぼれないように、必死に堪える。
「知ってる」
頭を抱き寄せられたまま、大きな手でかみをクシャクシャっとされた。