その背中、抱きしめて 【上】



「離れるわけないでしょ。何のための指輪?」


高遠くんが自分の右手の薬指を私の右手の薬指に当てる。

”カチン”とお互いの指輪がぶつかって音を立てた。



「不安になんなくて大丈夫だよ。俺は先輩から絶対に離れないし、もう会えないわけじゃないんだから。会う時間くらい作れるよ」



高遠くんの言葉は説得力がある。

私を安心させる力がある。


「まだインハイ予選まで2ヶ月半あるんだし、決勝は8月だよ。8月の初めまでは毎日一緒にいられるじゃん」



それは、インターハイの決勝まで行くっていう宣言。

予選敗退すれば6月に引退。

インターハイは8月初旬。

この2ヶ月の差は大きい。




「俺だって柚香先輩と毎日一緒にいたいよ」


歩きながら頭を抱き寄せられる。


「先輩こそ、勉強忙しいとか言って離れて行かないでね」


(え…?)



「離れるわけないでしょ」

涙がこぼれないように、必死に堪える。




「知ってる」


頭を抱き寄せられたまま、大きな手でかみをクシャクシャっとされた。



< 501 / 503 >

この作品をシェア

pagetop