モテ系同期と偽装恋愛!?
そういえば社食でカツ丼を食べている姿を見たことがあるような気が……。
あやふやな記憶なので豚カツが好きだという確証は持てないが、他になにを選んでいいのか分からないので、それをトレーに乗せた。
会計を済ませて店を出ようとしたら、ちょうど入って来た人と鉢合わせる。
あ……。
その人はうちの社員で、機能化学事業部の30代の男性社員だ。
入社間もない頃、しつこく交際を求めてきた人なので、特に関わりたくない男性の中のひとり。話しかけられない内にと挨拶だけして、そそくさとパン屋から出て行った。
腕時計を見ると、時刻は8時半。
始業は9時なので慌てる必要はないが、出勤している社員が少ない内にこっそり花を飾りたいので急ぎ足になる。
横山くんへのお礼のカツサンドも、誰にも見られていない内に、彼のデスクに置いておけるならベストかも。
点滅信号の交差点を小走りで渡り、社屋に入ってエレベーターで4階へ。
この階には8つの会議室が集中して並んでいる。
人がまばらで静かな廊下を進み、角をひとつ曲がって大会議室のドア前に着いた。
使用頻度が少ないこの部屋に一番多く出入りしているのは、私か、それとも掃除会社のパートのおばさんか。
始業前ということもあり、中に誰もいないはずだと思い込んでいる私は、ためらいなくドアノブを回した。
しかし、ドアを2センチほど押し開けたところでピタリと手を止めてしまう。
中から話し声がするのだ。それもドアのすぐ近くで。