モテ系同期と偽装恋愛!?

すすり泣きながら話している女性の声と、「ごめんな」と謝る男性の声。

女性は誰なのかすぐに分からないが、男性は分かってしまった。横山くんだ……。


「遼介くんが出張多いのは前から知っていたんだよ……もう寂しいなんて言わないから……お願い、もう一度私と……」

「ごめん。俺がダメなんだ。今後、口には出さなくても、長谷川さんの心は寂しがっているはずだと思ってしまうからさ。その気持ちに応えられない自分が嫌になるんだ」

「絶対にダメなの……?」

「ああ。本当にごめん。次はもっといい男を捕まえて……」


ドアノブを掴んだままの私は、固まったように動けなくなっていた。

長谷川さんと呼ばれた女子社員は、横山くんのインド出張前に付き合っていた総務部の2年目の子だ。

彼女が寂しいと口にしたから別れることになったという桃ちゃん情報は、間違いないみたい。

そして今、復縁を求めたが断られてしまったということで……。

驚きの波が引いた後は、他人の恋愛事情を立ち聞きしてしまった罪悪感に襲われた。

気づかれない内にドアを閉めて立ち去らなければと焦り出す。

2センチ内側に開けたドアをそっと閉め直したが、まだドアノブから手を離していないのに、勢いよく内側から開けられてしまい、つんのめるように中に入ってしまった。

ドンとぶつかった相手は長谷川さん。

彼女は涙に濡れた瞳を大きく見開き驚いてから、私をひと睨みして押しのけるように廊下に出ると、無言で走り去ってしまった。

長谷川さんに、申し訳ないことをしてしまった……。

中に人がいないと思い込んだことを後悔していた。

核心部分の話を聞いてしまう前に、なぜもっと早く立ち去らなかったのかと、自分を責めた。

いまだドアノブに手をかけたまま、彼女の去った廊下を沈痛な面持ちで見つめていたら……「おい、俺のことは無視かよ」と、真横で不満げな声がした。

< 24 / 265 >

この作品をシェア

pagetop