Love Cocktail
悩んでいたら、小さな笑い声が聞こえて、運転席に座ったオーナーを振り返る。

「また私、何か口に出ていましたかぁ?」

「いいや。なんとなく解った」

オーナーは後部座席に身を乗り出し、何か探し始めた。

「オーナー?」

訝しんで首をまわすと、目の前に男物のサンダルを差し出される。

「まぁ、普段の君ならブカブカだろうが、今は包帯しているし支障ないだろう」

それを足元に置かれた。

「明日は一号店の方か?」

一号店とは、一応私が基本所属している『カマクラ』の事だよね?

頷いてから、不思議に思ってオーナーを見つめた。

「あ、はい。十七時からですがぁ」

「解った。十六時頃に迎えに行く」

十六時に迎えにくるの? 意味が解らなくて首を傾げる。

「さすがに、そのサンダルで駅を行き来するのは恥ずかしいだろう?」

そう言われて、足元に置かれたサンダルを見た。

茶色の革の平べったいサンダル。乙女チックな今の私の格好に、かなり不相応なゴツイデザイン。

「だから、しばらくは送り迎えするから」

「え? そんな……さすがに悪いですよぉ!」

慌てて手を振ると、オーナーはシートベルトをつけながら軽く首を振った。

「ちゃんと選んであげなかった俺の責任だから」

「や。新しい靴なんて、誰だって靴擦れしますってぇ!」

「ピッタリ合っていれば、そんな事はないよ」

オーナーはエンジンをかけようとして、一瞬だけ目が合って……。

それから、急に私の方に身を乗り出した。

びっくりして目を真ん丸にした私の目と、オーナーのやたら静かな目が近差十センチのところで交わり、心臓がバクバクと叫び声をあげる。

「えっと……?」

なに!? なになになに!?

「シートベルト」

低い声で囁いて、オーナーはシートベルトを手に掴み、身体を離して行く。

カチリ……と、シートベルトをつけられて脱力した。

オーナーの行動はた~まにドキドキしちゃう。

エンジンの音と同時に、オーナーの咳払いが聞こえて……。

「そのサンダル…」

「は、はい!」

「……新品だから、気にしないで履いて」

そう言われて、また足元を眺める。
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