Love Cocktail
「……吉岡さん。オーナーと何かあったのかい?」

言われた言葉に中根さんを見上げる。

「それは何故ですか?」

「木曜日はオーナー来る日……だからかなあ?」

飄々とした言葉だけど、どこか少し真剣なその様子に苦笑する。

「……ですから、家の事情ですって」

軽く手を振ると、中根さんに頭をポンポン叩かれた。

「次回は、もっと大人の男性選びなよ?」

ああ、これはもしかするとバレていたのかな? 私がオーナーが好きだったこと。

ますます苦笑して肩を竦める。

「中根さんはいくつでしたか?」

「37。バツイチの子持ちはやめておきなよ」

わざとカッコつけたようなニヒルな笑顔で言われて吹きだした。

「さすがに、15歳も上の方は……」

……っていうか、中根さんバツイチ子持ちなんだ?

「ええ? そんなに違うのか?」

目を見開いて驚く中根さんに、思わず訝しい顔をする。

「この童顔をつかまえて何をおっしゃいます」

「いやぁ。女性はわからないもんだよ」

「そですかね?」

「そうだね。吉岡さんは時々フッと大人の顔見せるから、もっと上だと思ってたよ」

「おお。そんなの言われたの始めてですぅ!」

「空元気も程々にね」

笑顔を貼り付けたままで、そっと中根さんから離れる。

察しのいい大人過ぎる人は、苦手になりそうですが……。

「大丈夫ですよ。私はバーテンなんですから」

「よく解らんが。暇なら試作に励んでみるか?」

「それは……辞めるまでにいろいろ作っていけと?」

顔をしかめると、中根さんはニカッと笑った。

「解ってるじゃないか。吉岡さんの作るカクテルはかなり面白いの多いからな~。ジャンジャン作ってレシピをガンガン置いて行って」

「うわっ! シンデレラな気分」

「ああ。俺は継母か?」

「じゃあ、ドレス着ないといけませんねえ!」

真剣に言うと、真剣な顔を返された。

「それは素なの? それともわざとなの?」

わざとの意味がわからない。キョトンと瞬きしたら中根さんに苦笑される。

それから頭に手を置かれるとぐしゃぐしゃに撫でられた。
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