Love Cocktail
「頑張ってシンデレラ」

「……はい!」

そうこうしてるうちにお客様が来て、いつもの日常が戻ってくる。

シェイカーを振りながらフッと苦笑した。

まぁ、生活なんてこんなものかも知れない。個人の思惑はどうあれ、それは世間には関係なくて、それぞれの時間はどんどん進んでいく。

「…………」

本当は辞めるつもりなんてなかった。

ラウンジのメンバーは私を避ける事はないし、けっこう楽しい。

だけど……2年は思っていたより長かった。

このままここにいても……しばらくは苦しいんじゃないかなと思う。

シェーカーからグラスに出来上がった青いカクテルを注ぎ、にっこりウェイターに渡した。

誰がいつ来ても、笑える自信はある。
カウンターの中にいる限りは……。

でも、出来るだけ会いたくはない。
だから、逃げようと思う。会う機会も出来るだけ減らす。

案外、私も臆病なのかも知れないな。臆病で、プライドだけは高い。

とても疲れたようにも感じる……疲れることなんか、今までなかったのに……。





***


そんな感じで、日にちはどんどん過ぎていき。

部屋の家具は、友達にあげるなり売るなりして、どんどん減っていった。

……この街に、また来る事があるのかな。

ぼんやりしながら靴の整理をする。

とても夏らしくて可愛いミュール。靴擦れして大変だった。だけど、そのお陰で抱き上げて貰えた。それはいい思い出になった。

でも、ゴミ袋に入れる。

残す靴といらない靴を分けて、捨てていく。

奥の方から男物のサンダルが出て来た。

返しそびれたオーナーのサンダル。どうしようか悩む。そして、残す靴に紛れ込ませる。

靴を仕分けると、今度は服に取り掛かった。

あまり着ることが無くなったシンプルなシャツ。それからお洒落なワンピースたち。

買ってもらったお金は……返そう。

ただで貰う訳にはいかないし、それに今後、この服たちを着ることもないだろう。

ワンピースをハンガーから外し、思い切ってゴミ袋に入れていく。

24日に着る服と、25日に着る服と、後は日常的な小物を、キャリーケースに詰めていく。

布団は明日の昼にしまえばいい。

後は送るものだけを段ボールに詰めて、がらんとした部屋を眺める。

引っ越し屋さんは24日の昼に荷物を取りにくる。だから、明日にはこの部屋には帰って来ない。

捨てるゴミ袋と送る荷物とを比べて、捨てる物の多い事に苦笑した。
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