Love Cocktail
ただ初めて入る厨房で、どこに何があるか解らない。

そこで、手伝いを買って出てくれたオーナーに見つけてもらう事になった。

カクテルを出来るだけ素早く作り、気ばかり焦っていた時。

「オーナー。カシスを補充して頂けますか?」

「カシス……カシス?」

オーナーはカチャカチャとボトルを探し、1本を手に持った。

「これか?」

「それはカンパリですからっ!」

手にしたマドラーを思わず投げたら、綺麗にオーナーの鼻先にヒットした。

……今しにて思えば、ここから厨房組との会話が消えたような気がする。

そしてその後、初めてオーナーと飲みに行き、この時初めてオーナーがお酒に弱いことを発見したんだ。

飲酒を扱ってるくせに、弱いというのはそれこそ驚いたけど……そんな所も可愛いなんて、そう思った。

それからよく飲みに行くようになって。

雪が降った夜……ちょっと呂律の怪しくなっているオーナーが、早苗さんって人が好きなことを愚痴り始めて、正直、人の気も知らないで話しているオーナーに少しだけムッとした。

……なので、飲ませまくった。

それからかな。今度はオーナーが、私を逆に酔い潰すとやっきになったのは……。

いや、私も『あれくらいで潰れるなんてだらしない』とか言ったかもしれないけど。

この頃から各店のヘルプに入るようになったし、その間にもいろんな事があった。

早苗さんにも会ったし、桐生氏にも会った。

早苗さんの友達のパワフル佳奈さんにも会った。

たくさんの出会いがあって……そして、今日の17時で、4年間の思い出に別れを告げようとしてる。

まずは、このホテルの一室に別れを告げてエレベーターに向かった。

フロントで鍵を返し、支払いをしていると、スタッフルームから支配人が出て来る。

「快適に過ごされましたでしょうか?」

優しくゆっくりと問われ、微笑みながら頷いた。

「ありがとうございます。ワインもとても美味しかったです!」

支配人もふわっと笑顔で、同時に頷いてくれる。

「一条氏から以前、吉岡さんは酒豪だとお聞きしておりましたから」

こんな所で、オーナーの名前を聞くとは思ってもみなかった。

「オーナーは、よく利用されるんですか?」

「いいえ。ですが、このホテルは元は一条グループの傘下でしたから……」

なるほど、そんな繋がりもあったんだ……。

考えて、ふっとバックの中の封筒を思い出した。

オーナーに返そうと思っていた洋服代。それを取り出してから、支配人を見る。
< 88 / 112 >

この作品をシェア

pagetop