Love Cocktail
「ごめんなさい。最後までは……」

早苗さんは少し考える風にして、そっと頷いた。

そして、次のテーブルへと向かって行く。

最後までいるつもりはありません。我が儘でごめんなさい。
ここで、オーナーに向かって笑う自信は、まだないです。

キャンドルサービスが終わり、何人かの祝辞が披露された後、会場が明るくなった。

「吉岡さん! これがうちの旦那さまですぅ!」

佳奈さんに、隣に座った優しそうな旦那さまを紹介される。

「はじめまして! 吉岡です!」

にっこりと微笑んで、ビールを一息に飲むと旦那さまに少し引かれた。

「うわっ……佳奈が二人いる!」

「それは、どういう意味だよぅ!」

ポカポカと、旦那さまを叩く佳奈さんに笑える。

さては、パワフル主婦は酒豪なんでしょうか?

そして笑いながら、すでに帰るタイミングを考えていた。

さて、ご挨拶はしたし、出席もしたし、いつ帰ろうか。

佳奈さんがどんどんお酒を注いでくるので、それをどんどん飲む。

そして、またお色直しに立った早苗さんに気づいた。

抜け出すなら、今かも。

佳奈さんに別れを告げたらビックリされたけど、バック片手に、入って来た扉から飛び出す。

「早苗さん!」

衣装部屋へと向かう、早苗さんを急いで呼び止めた。

「もしかして、もう帰るっていいます?」

察したように困ったように微笑まれ、私も苦笑を返すしかない。

バックから、御祝儀袋を出してその手に渡す。

「これから、泊まる所を捜さなきゃなんで!」

「御実家じゃないの?」

「はい! 今日は馴染みのお店に顔を出して、ホテルに一泊したら関西の方に行ってみようと……」

その言葉に、早苗さんはゆっくりと目を丸くした。

「関西のどこ?」

「まだ決めてません。いいお店があれば、そこでまたバイトしますが……」

だけど、早苗さんは何故かオロオロと辺りを見回し、

「まだ住所も決まっていないと言うの?」

「落ち着くまでは。落ち着いたらすぐに、教えますから!」

にっこり微笑んで、手を振る。

「では、佳奈さんによろしくお伝えください!」

早苗さんは何か言いかけ……決心したように頷いた。

「苺ちゃん! 帰り道には、狼さんに気をつけて!」

「はぁ……?」

何かを考えるように控室に入って行った早苗さんをポカンと見送った。

狼さんも何も、さすがに北海道でも狼は街中に出ないし。
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