幻が視る固定未来
「……キス」

――――

―――――――――

……おい、オレ。なんてこと口走ってんだ、オレは――!

「したいなら、すればいい」

見据え直す有希乃。まるでかかってこいって言っているような態度。
肯定の言葉が出てくるような気がしていた。それは予感していた。
だというのに、どうしてオレはこんなにも動くことが出来ないのだろう。
有希乃との距離など上半身だけを動かすだけで触れられる。だって一度は抱きしめられたのだから。
――けど、なんか意地になったらしい。有希乃の『すればいい』という言葉に。
オレは逆に今の言葉を……。

「やっぱり止める。これは有希乃から言ってもらいたい。本当にしたいと思った時に」

有希乃に言わせたかった。

「そう、分かった」

身を崩す有希乃。
それを見てオレは自分の言った言葉が正しいと思えた。だってここでキスしたいと言わないのなら、したくないということなんだから。
今日は抱きしめただけでも進歩したと思おう。
そんなことを思い出すとまた顔を真っ赤にしてる今日のオレだった。









――こんな馬鹿みたいに幸せ面している中、日々進行している“段階”をオレは知る由もなかった。
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