幻が視る固定未来
カイコ? それはどうゆう意味だ? オレの脳内に収まる言葉辞書から“カイコ”という文字を探す。

回顧=過ぎ去ったことを思い起こすこと。これか?
懐古=昔のことをなつかしく思うこと。それともこれか?
――まさかの蚕か?

『木下有希乃を蚕します』これは意味不明だ。
なんだよ。それじゃ解雇だとでも言うのか? それこそ意味不明だ。ありえない。

「灼蜘、聞きなさい。ずっとあなたと木下を観察して、そして判断したことです。今の灼蜘にとって木下は邪魔な存在になります」

そういえば思い出す。以前に助歌が『それに今はまだ“観察段階”ですから』と言っていたことを。それをオレは自分のことだけだと思っていた。けど実際はオレではなく、有希乃を監視していた。
何故? 有希乃は十分に召使いとしての役割を果たしている。それに友達にもなったし今では恋人でもある。
だというのに、どうして母上は有希乃ことを必要ないと言ったのか……いや、そんあこと言っていない。言ったのは“邪魔”になるということ。
だったら有希乃がオレの何を邪魔している?

――歯車だ。

すぐに理解する。有希乃という存在はオレの固定未来、真の玄武になることを脅かす存在となっている。母上はそのことを知っている。
だから、早いうちに切り捨てようとするのだろう。

母上の決定。
逆らえない。

いくら有希乃のことでも母上には逆らえない。逆らってはいけない。もし逆らってしまったら、それは真の玄武の道を踏み外すことになりかねないから。
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