幻が視る固定未来
母の香りがあり、父の面影があるこの部屋をオレは好きだった。いや、確かに今も好きだ。だけど昔以上にこの部屋が好きだから来る、という行為が出来なくなった。
流石に恥ずかしい。

「どうしたの灼蜘? 早く入りなさい」
「あ、はい」

入口で立ち尽くしてしまったオレは、素直に母上の言うとおり部屋に入りソファに腰かける。
母上はテーブルを挟んで目の前のソファに腰かけた。

「それでどうしたんですか?」
「ちょっと話したことがあって」
「木下有希乃のついて、ですね?」
「え、えと、う、はい。そうです」

いきなり母上でオレの言いたいこと当てて声が出なくなりそうになった。それほど顔に出てただろうか。

「木下とはうまくやっているようで安心してる。日々、助歌から色々なことは聞いてます。だからこそもっと早く相談に来ると思っていたけど今日まで来ませんでしたね」
「はい。本当は相談するべきことは多かったと思います。それに報告も。だけどそれは助歌がやると分かっていたからしませんでした。今日来たのはその助歌についてです」
「何か助歌に不手際がありましたか? そのようなことは聞いてませんでした」
「いえ、正確には助歌は何も悪くありません。ただ助歌と一緒に行う訓練について一部改正して欲しいんです」

冷静を取り戻した時、オレはいつの間にか母を相手に敬語を使っていた。いや、それは当り前のことだ。今日はお願いをするために来たんだから。
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