恋の罠にはまりました~俺様部長と社内恋愛!?~


「こんな私でも、いいですか?」


ぼろぼろと涙がこぼれる。

夢で終わらないで。こんな素敵な奇跡を、一晩の夢で終わらせられるわけがなかったの。


「こんな私でも、抱きしめてくれますかっ」


あなたにとって一時の気の迷いでも、私はこの奇跡を手放したくない。

そんな思いを込めて叫ぶと、日下部長が動いた。

つかつかと大股で近づいてきたかと思うと、思い切り抱きしめられた。


「当たり前だ」


低い声が、耳をくすぐる。

壊れそうなほど高鳴る胸に、日下部長の香りを思い切り吸い込んだ。

このまま息が止まってもいい。残酷な現実にさらされる朝なんて、永遠にこなくていい。

そう思う私の気持ちをよそに、日下部長はゆっくり体を離し、代わりに私の手を握った。


「続きは、人のいないところで」


そうささやく部長の手を握り返す。

身分も違う。つり合っていない。だけど、そんなこと今は関係ない。

靴の片方だけ置いて帰るなんてできないの。

私は靴擦れをした足を引きずりながら、必死で彼についていく。

すると彼はそれに気づき、歩く速度をゆるめてくれた。

そんな小さなことが、とても幸せなことに思えた。


< 125 / 286 >

この作品をシェア

pagetop