恋の罠にはまりました~俺様部長と社内恋愛!?~


『どうした? なにかあったのか?』


咄嗟にあごで挟んだスマホから、副社長の緊張した声が聞こえる。

どどど、どうしよう。バッグは盗まれたら困るけど、手を離した方が安全だよね?

仕方なくバッグを捨てて逃げようと思った瞬間。男は一度手を離し、私の手首を捕まえ、ぐいと引っ張った。

それはものすごい力で、バランスを崩した私は、男の膝に倒れ込むような形になってしまう。

顔から離れたスマホが、足元でからんと音を立てて落ちた。


「なっ……」


いったい何なの!?

助けを呼ぼうと開けた口に、白いハンカチが押し当てられる。

甘いような、強いアルコールのような、独特のにおいが鼻孔をついたと思ったら、すぐに身体から力が抜けていった。

なにコレ。まるで、誘拐みたい。誰か助けて……。

もがく間もなく、脳がくらりと揺れ、視界が暗くなった。

何が何だかわからないうちに、私の意識はどこか遠くへ飛んでいってしまった。



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