手に入れる女

優香と駅で別れた佐藤は、そそくさと家に帰った。

とにかく食事はしたし、もうこれ以上深入りするのは絶対にやめよう、と佐藤は心に誓った。

彼女と過ごす一時は愉快だったが、何かの拍子にそれが情事に変わってしまうだろう、という危うさもよく自覚していた。
おまけに、優香は何のためらいもなく堂々と迫ってくるから始末が悪い。しかも、気がつけば優香のペースに乗せられている。

これ以上は危ない。面倒なことにならないうちに手を引くべきだろう。

「ただいま」

キッチンの奥から美智子の声が聞こえて来た。

「お帰り〜。ご飯食べる?」
「食べて来た」

リビングに入りながら返事をすると、美智子は、おや、という顔をした。

「あれ、何か機嫌いいね? 何食べて来たの?」

優香のことをあれこれ悩んで気をもんでいるというのに、機嫌がいいと言われてちょっと心外だった。

「うん、魚とか。ホラ、この前美智子と行ったところ」

いつものように何気なく答えた後、優香の顔が佐藤の脳裏にちらついた。

「あ、あそこね〜、へー、誰と行ったの?」

< 124 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop