手に入れる女
#11

家に帰るのを苦痛だと思ったのは初めてだった。

美智子は以前と変わらぬ朗らかさでいつでも機嫌良く佐藤を迎えたし、佐藤にしてもそういう日常を何よりも愛していたはずだった。

圭太の結婚騒ぎで楽しそうにはしゃいでいるのも美智子らしいことだった。
毎晩帰宅すると、嬉しそうに二人のことを話題にする。その度に、圭太と優香が顔をよせ合っていた楽しそうに笑い合っていた姿を思い出して、何とも言えない苦々しい気持ちがこみ上げて来るのであった。

自分の気持ちに素知らぬふりをしてやり過ごせば、かつてのように穏やかに過ごす日々を何よりも大切だと思えるようになるのだろうか?

そんなことを考えながら、全く気乗りのしない自分を押し殺して、美智子の話に相づちをうったり、彼女を抱きしめたりすることがどうにも苦痛であった。

無邪気に笑う美智子と顔を合わせると、心に鉛のように重くて暗い感情を抱えた自分がどうにも惨めに感じられるのであった。

傲慢なぐらい自分の感情をむき出しにする優香に比べると、自分は何と卑屈で窮屈であることか。
気がつけば優香のマンションに佐藤の足は向っていた。

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