手に入れる女

佐藤と圭太の視線がぶつかった。

圭太は佐藤から視線を外さなかった。佐藤もまた圭太をじっと見つめた。

「圭太」

起き上がった優香が声を出すと、我にかえったように圭太はくるりと向きを変えマンションを立ち去った。

佐藤と優香は、ぼんやりと圭太が立ち去るのを眺めていた。
二人とも魂が抜けたかのようにふんにゃりとしている。
佐藤と優香はお互いの顔を見つめあっていた。

佐藤がふっと息をもらした。
その瞬間、今までの緊迫した空気が、風船がしぼんでしまうようにしゅうっとどこかに抜けて行ってしまった。
間の抜けた空気が漂う。

優香がふふふふふとふいに笑い声をあげた。
佐藤も、つられてくくくくと笑い出した。

からからとした抜けるような笑い声で、二人とも案外サバサバした顔だ。

「見つかっちゃった……」

優香の口ぶりはまるでかくれんぼうをしている子供のようだ。

「本当に。間が抜けてますね、こんな格好で」

佐藤も同意する。

二人は声をたてて笑った。おかしなことに無邪気で陽気な笑い声だった。
佐藤はその笑い声に救われたと思った。急に辺りが明るくなったような気がした。

「遅かれ早かれこうなったんだろう」

思い切って口にすると、ますますそうなることがもとから決まっていたような気がしてくる。

「どうするの、これから?」
「さあ」

優香に応えながら、佐藤はこうなることを望んでいた事にはっきりと気づいた。
佐藤の意志があった。
にっこり笑うと、晴れ晴れとした迷いのない声で言った。

「これで、君はオレだけのものだ」

それはほとんど、高らかに宣言するような口調だった。

「最初から、私はあなただけのものって言っているじゃない」

優香はいたずらっぽい顔をして応えた。


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