手に入れる女
野次馬たちは、圭太と優香を遠巻きに見て、酒の肴にして盛り上がっているようだった。
急に周りに隙間ができたことに気づいた優香が圭太の横ひじをつつく。
「ねえ、他の人たちが遠のいちゃってるよ」
圭太はそんなことお構いなしで、さりげなく優香の肩を抱いた。
もう片方の手で、グラスを持ち上げる。
「みんな気ィきかせてくれたんじゃない?
僕が優香さんと二人きりになれるように。ね、だから笑った顔みせてよ、優香さん」
圭太はほとんど空になったウィスキーのロックをカラカラとふって飲み干した。
氷の音が優香の耳に優しく響いた。その音を聞いたら、なぜか涙がほろっとこぼれてしまった。
「あ」
自分でも頬を伝わる涙に驚く。
圭太は、ゆっくりと優香の涙を親指で拭い取った。
「そんなに悲しそうな顔しないでよ」
一度泣いてしまうと、後から後から涙がこぼれ落ちて止まらなかった。
「今日……ずっと会いたかった人に偶然……会ったの。久しぶりだった……」
話しながら佐藤の顔を思い出す。
親しみのある穏やかな笑顔だった。時々、いたずらっぽい顔をして優香に軽い冗談を言う。そんな時の表情もたまらなく魅力的だった。
「だから……すごく嬉しかった。なのにね……その人、デートの待ち合わせだったんだ」
こんなこと、話すつもりはさらさらなかったのに、圭太がそのまま黙って隣りにいてくれたものだから、優香は止まらなくなった。
圭太は優香の頭をなでながら、静かに話を聞いていた。
「私もね、知ってたんだ。その人にはちゃんと他の人がいるってこと。知ってたのよ。
だから……、その人と会って嬉しくなったり、ドキドキしたりする方がおかしい、って分かってるの。
そんな風に思ってても、やっぱり目の前で二人が仲良くしてるのを見せつけられるとおかしくなりそうだった……。
その人がね、彼女をすごく大切にしてるっていうのもひしひしと伝わってきて……
なんであたしじゃないんだろう……
なんであたしにはそんな人がいないんだろう、って思ったら、なんかすごく……腹が立って、情けなくなっちゃって……」