ピーク・エンド・ラバーズ


消え入りそうな声で喉奥から何とか絞り出して、慣れない響きを届けた。
うん、と酷く嬉しそうな返事が聞こえる。


「もう一回聞きたい」

「む、無理」

「今日はもうだめ?」

「うん」

「明日ならいい?」

「……う、ん」


明日の自分、頑張れ。投げやりな応援を胸中で繰り広げて、目を伏せた。

そうして私たちは、今日ようやくスタートラインに立ったような気がする。
これが正しいのかと問われれば、それはイエスともノーとも答えられないのかもしれない。ただ、正しくあろうとした、誠実さを投げ捨てなかった、ということだけは確かなのだろう。私たちには私たちだけの正解があって、不正解がある。それを二人で必死に探している最中なのだ。

テレビを見て、お風呂に入って、夜は別々に眠った。
薄暗い部屋の中、瞼を閉じきる前に聞こえた津山くんのいびきに笑ってしまいそうになったけれど、それがなぜだかとても幸せな波の中にいるようで、涙が出た。

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