ピーク・エンド・ラバーズ


そっか、と浮ついた声で返した彼の顔色は、もうすっかり健康的だった。

津山くんの体調が悪かったのは、純粋に食事と睡眠を怠っていたからだ。
彼の部屋で過ごす間、一緒にご飯を食べて眠くなったら寝る、といった具合に、かなり欲に忠実な生活を送った。といってもそれは、たった一日半の出来事だったけれど。


「……昨日寝れなかった?」


彼の目がほんの少し眠そうに垂れ下がっていたので、下から覗き込むようにして確認がてら問いかける。


「え、バレた?」

「うん。なんか、ぽやっとしてる」


まじか、と照れ臭そうに津山くんが頬を掻き、私に視線を寄越した。


「……電話できたの嬉しすぎて、切った後も寝れなかった」

「え、」


実は昨日の夜、彼と電話を繋いだのだ。
特に用事があったわけではない。思い出すだけで気恥ずかしいのだけれど、津山くんが「声を聞きたい」とか言い出すものだから。

もともと彼は連絡がマメな方だなとは思っていた。返信が遅いのを直して欲しいと言われたし、私も彼に合わせてなるべくメッセージを返すようにはなったのだ。
ただ、メッセージのやり取りにしろ電話にしろ、以前よりも遥かに糖度の増した口調や声に翻弄されている。


「おーおー、見せつけてくれんじゃーん」

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