ピーク・エンド・ラバーズ



夏から秋、秋から冬になると、いよいよ教室の空気も緊張が張り詰めてきた。
本番までに残された時間は少ない。その日は最後の模試の結果が返却されて、担任との面談があった。

放課後は十七時過ぎまで自習室で居残って勉強してから帰る。それがすっかりルーティンとなった私は、今日もいつも通り勉強を終えて、荷物をまとめていた。
階段を下りる前、三年四組の教室にまだ電気がついていて、興味本位でさりげなく中を覗いてみる。――と。

机に突っ伏し、脱力しきった体勢の男子生徒が一名。
いや、あれは津山くんだ。周囲を見渡しても、友達の姿はない。

遊び人、なんて言われていた彼は、いつの間にか消え失せていた。彼に媚びていた女の子も次第に離れていき、今では快活な男子が彼の肩を組むだけだ。
相変わらず人気者なのは変わらないけれど、つまらなくなったよね、とどこかの誰かが揶揄っていたのを耳に挟んだことはある。

いま思えば多分、魔が差したんだろう。
すぐに帰って一分一秒無駄にせず勉強すれば良かったはずなのに、私は教室に足を踏み入れていた。


「津山くん」


彼の近くまで行って名前を呼ぶ。びくりと震えた背中は、起き上がらなかった。


「寝てるの?」

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