お見合い結婚~イケメン社長と婚前同居、始めます~

「ありがとう」

お礼を伝え、見上げてみると、コーヒーを運んできてくれた明らかに地味で大人しそうな女子社員はトレイを胸の前で抱きしめるようにして持ち、はにかんだように微笑んだ。



ふと、その女子社員の制服につけられた名札に目が留まる。

-赤井-



長い髪はシュシュで1つにまとめられ、フレームなしの眼鏡の下には吸い込まれるような漆黒の瞳。
華奢な身体をカバーしている制服だって着こなし方から、彼女の性格が伝わってくる気がした。

化粧っ気も目の前の女子社員は、いつも自分の周りに居るような派手で、媚るような女性ではない。

どちらかというと、存在していても自分は全く気がつかないタイプ。
それなのに、彼女に引き寄せられてしまったのは、可憐にはにかんだ笑顔せい。



いや、それだけではない。
多分、この土地で、「赤井」という名字の女性だったから。
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