その男、猛獣につき

「俺と有田は、バイザーと実習生。それ以上でも、それ以下でもない。ただそれだけだ。」

そんなこと分かってる。

分かっているけど、興梠先生を好きになってしまったんです。

 

思わず、涙が溢れだしそうになって、唇を噛みしめる。

 

「男なんて、俺以外にも山のようにいる。」

 

もちろん、これ以上先生の話を聞きたくもなかったし、その場に居ることが出来なかった。

でもそれ以上に先生が言葉を発するたびに、私以上に傷ついている表情を覗かせているのが見るに堪えなかった。

 

私は先生に背中を向けて走って帰った。

こんな時、スニーカーを履いててよかったと思う程の猛ダッシュで駐車場を後にする。

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