その男、猛獣につき

病院の中に入って、寝泊まりしているリハビリ室に向かう。

職員用の重たい非常階段の扉を開けた瞬間、我慢していた涙が溢れだしてくる。

 

答えなんて分かっていたはずなのに…。

先生の言葉にこんなにも傷つくとは思わなかった。

 

リハビリ室に着くと、駐車場が見渡せる窓のカーテンの隙間から駐車場を覗く。

 

そこにはまだ、先生の車がエンジンをかけたまま停まっている。

 

先生は、というと、誰かと電話しながら煙草をふかしている。

 

9月初旬、先生の煙草が季節外れの蛍のように夜の闇に寂しく赤くなったり、消えたりを繰り返していた。

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