その男、猛獣につき
私の誕生日翌日、実習4週目に入った火曜日。
「先生、昨日はありがとうございました。それで、あの服なんですけど…」
朝のミーティングの前に、レポートを提出しながら、昨日の御礼を言う。
先生の急なキスのせいで、一睡も出来なくて、レポートにも集中できず、それでもどうにかまとめあげたのはもう明け方だった。
昨日のキスのことは、実習中は絶対に忘れることにする。
そう言い聞かせて、先生にレポートを渡そうと勇気を振り絞って声をかけたのに…。
先生は、小さく人差指を口の前に置き、ジロリと私を睨んだ。
「その件は、あとで」
先生は私の耳元でそっと囁く。
「えっ?」
「聞かれたら、あのおばさんたちがうるさい」
思わず小さく吹き出した私に、先生は苦笑いを浮かべる。