その男、猛獣につき


「ずっと興梠先生がどうしてトイレ動作が目標の森田さんに歩行訓練しているのか気になっていて…」

 

「その意図を考えたということか?」

 

「森田さんが少しでも歩きたいからだって、先週までずっと思っていました。」

 

「まぁ、理由はそれもある。それで?」

さっきまで少し悩んだような表情をして応えていた有田の表情が徐々に自信に満ち溢れ、瞳に力が籠っていくのがわかる。


先週までの有田なら、俺をどこか怖がった様子を見せながらボソボソと喋っていたのに、なんだか雰囲気まですっかり変わっているようだ。
 



「昨日、歩行訓練の直後にトイレ動作に介入したんです。そしたら、すごいんですよ、森田さん」

 

興奮しているようで、正面に座っていた俺の手を有田は思わず掴む。

 

俺は有田の話より、その手に意識が一気に集中したが、有田は話に夢中なようで2人が手を繋いでいるというシチュエーションに全くもって気付いていないようだ。

 

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