その男、猛獣につき

「下肢の支持性を高めるために、階段を下りる練習を追加するってことか?」

 

「そうなんです。視覚的にも、意識もかなり集中して訓練ができると思うし。だけど…」

 

「だけど?」

「階段での訓練は、森田さんの動作や体格では転倒のリスクがかなり高いと思います。特に私…」

 

思わず、有田を頭のてっぺんからつま先までを眺めてみる。



確かに歩行も不安定な中肉中背の森田さんを、か細い身体のラインをしている有田が抱えながら階段の練習をするとなると、バイザーとしては極めて危険と判断するしかない。

 

 

一瞬、森田さんではなく、有田が怪我をすることを心配した自分は、この仕事失格なんじゃないかと思えて、気分が落ちる。

 

「興梠先生、階段昇降の指導と練習に付き合ってもらえませんか?」

 
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