その男、猛獣につき
えっ。もう読むの?
なんて思ったのはつかの間のこと。
みるみる顔が不機嫌になっていくのが分かる。
リハビリの内容だって、先生がいつもしていることをベースで考えたから、きっと大丈夫なはず。
その考えが甘かったんだろう。
「有田。全く分かってないな」
冷たくて怒りの感情を抑えた様な声色、そしていつもの蛇睨みに背筋が無意識に伸びる。
はぁぁ。
先生の大きなため息が聞こえる。
私もガックリ肩を落とすその瞬間、猛獣の興梠先生が姿を現した。
私の作ったレポートは、その瞬間に先生の手によって宙を舞ったのだ。
ヒラリ、ヒラリと床に落ちるレポート1枚1枚を私は呆然と見ることしかできなかった。
「昼休みの後で、ちょっと来い。」
私を冷たく睨らみながら言う先生の姿が、涙でぼやける。
泣くもんか。
《冷徹で猛獣の興梠先生》なんかに負けない。
どうにか自分を奮い立たせて、涙をこぼさないようにと唇を噛み締めた。