その男、猛獣につき


☆★☆
「この症例レポートの森田さん。有田は何で歩行に着目した?」


午後一番で、先生に呼び出された私は会議室で二人きりで対峙していた。



レポートでまとめた、担当させてもらっている森田さんは、70歳代後半の女性。



ずっと畑仕事したり、趣味の洋裁をして暮らしていたのに3ヶ月前に脳梗塞になって、左半身に麻痺がある。




興梠先生の森田さんのリハビリは、ほとんどの時間が歩行練習や階段の練習にあてられている。

私もそれにならって、リハビリ内容は歩行練習や階段の練習をメインでまとめた。




「歩ける様になった方がいいからです。」


もそもそと答えた私に先生は冷たい視線を浴びせた。


「何で?」

なんでって、言われても……。

そんな分かりきったこと……。


答えられずに私は俯いた。


「あのさぁ、考察にも同じ様な事書いてるけど、森田さんは歩けたら家に帰れんの?」


私は首を横にブンブン振った。


森田さんの家は、家に段差はあるものの少し住宅改修すれば車椅子でも充分生活出来るらしい。

ただ家族は、
「トイレの世話だけはしたくない」
と言っている。


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