その男、猛獣につき


 いつもの有田は髪の毛を1つにまとめ、自分も学生の頃に着ていた全く同じパウダーブルーの実習服。


今日は、実習服ではなく、Tシャツにデニムといった格好の有田。


胸下程まである少しパーマのかかった、いかにも実習のために染めたと思われる真っ黒な髪を今日は下ろしているせいか雰囲気が違ってみえるせいもあるのだろう。


その有田の笑顔に、自分でも驚く程、心が揺さぶられた。


それに気付かれまいと、表情をつくったけれど、胸の鼓動が納まることはなかった。



★☆☆


「いい子じゃん、今度の実習生」

テーピングを巻いていると、休憩にとコートサイドに戻ってきた敦也に声をかけられる。


「あぁ、うん」

気のない返事をしてみたものの、もうかれこれ10年近くの付き合いがある親友にはお見通しのようだ。

 

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