桜色





「ねえ、遥」




部屋には穏やかな空気が漂っていた
「ん?」


彼は返事をした



「お父さんの記憶ってある?」



「んー…
覚えてないな。」



「私も。」



父の記憶
中谷さんの話によれば一回だけ…
抱かれているはず
遥のお父さんにも一度だけ抱いてもらってるはずだけど
そんなの覚えてるわけない。



「私の両親を知っているのは
中谷とパパ、ママ、征兄だけ…












会って見たかったな…」






目頭が熱くなったから窓の外を見た
南の空に高く登った太陽の光が入っている






「うん。」





遥は静かに頷いた


「もし会えたら私聞きたいことがいっぱいあるの!

なんで天堂さんに名前を決めてもらうことにしたのか、
パパの好きなものとか好きなこととか
そんなどうでもいいことを話して
中谷さんとのことも聞きたいし

それと、

なんで……死んじゃったのか………



遥は?
何かある?」






「俺は、特にない
俺と母さんを捨てた人だから…
でも
愛兎さんには会いたい。
会って…。」


遥はこちらをじっと見た
















「美麗をくださいって直接言いたい。」










真面目な顔
まっすぐな瞳














目から涙がこぼれた
「それって…。」




「うん、
全部終わってみんなが無事に帰ってきたら湊さんに言いに行こうと思ってた。」


















「美麗、ずっと一緒にいてくれ…。」




優しく抱きしめられた
彼の匂いが私を包む




「はい。」



彼の胸を濡らしながら返事をした。
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