【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。

悲しいほど愛おしい





近付くほどに彼は逃げる。


一歩一歩と後ずさって、私から逃げる。


その様は、何かに脅えて、懸命に堪えているようにも見えた。


彼の恐れは目の前の、私を通り越したもっと先にあるような気がする。


きっと、そう。


その目の奥に写すものは一体何なのだろうか。



不安定に揺れる瞳を覗き込む。


その目には確かに私が写っていた。


今の彼からはまるで、時が戻ったようかのように幼げな印象を受ける。



手を伸ばせば遠慮がちに、その掌で包み込んでくれた。


もう、逃げない。


私から目を逸らさない。


彼の手からやんわりと抜け出して、その顔をゆっくりと挟み込む。


控えめに寄せられる頰。


どこか安心を求めているようで胸が締め付けられるのを感じた。



仰いだ先の瞳を見つめ、今一度、そっと問いかけた。


「貴方は、だれ…?」



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