Jewelry Box
それは宝石のような
Side K

追っ手から逃げる途中、一旦身を隠すために忍びこもうとしたとある貴族の屋敷の小さな部屋。

窓の鍵を抉じ開けて中を見渡すと、高く積
まれた本の山。埋もれるようにその白はいた。

腰まで伸びた髪も、華奢なその身を覆う薄い夜着も、剥き出しになっている肌の色もすべて白。

それらを唯一裏切るのは白の細い足首を拘束する鈍色の鎖。

神聖で儚げでなのにそこはかとない色気を纏う白の姿に彼は魅入られた。

白と視線がぶつかり、逃げ出すように踵を返す。

それは数秒にも満たない短い短い時間のはずだったのに、何故だろう。

白の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。

あの娘は一体何なのか。

飼われているのだろうか、罪人なのだろうか。

気になって仕方がなかった。自らと対称的な美しい娘が。

あの輝きを宝石に例えるならば真珠だろう
か。

その容姿も雰囲気も純白で神聖でまるで教
会のステンドグラスに描かれる天使のようだった。


Side S

去りゆく男の影を目で追って、少女は考える。

彼は一体誰なのかと。夜の闇に溶け込みながらもその存在感は他者を惹き付ける輝きを持っていた。

漆黒の外套、漆黒の髪。夜そのものの如
き出で立ちをしていた、彼の姿。

それはまるで宝石に例えるならばラピスラズリのようだった。

星屑を散りばめた夜空を溶かしたような美しい宝石。

自らの白をその夜の色で染め上げて欲しいと心の奥底で願ってしまった。


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