たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


 


「そ、相馬くん!?」



一番に声を上げたのは、浴衣を着た可愛らしい女の人だった。


余程驚いたのか、人混みでも通る声に思わず身体がビクリと揺れる。


そして、隣にいる男の人と一言二言何かを話すと、今度は満面の笑みを浮かべて私達の方へと歩いてくる。



(え、え……?先輩?)



それにどうすることも出来ずに先輩を見上げれば、視線の先の先輩もまた困惑したような表情を浮かべていて。


助けを求めるかのごとく、繋いでいる手に力を込めれば、先輩の肩が小さく揺れた。



「……っ、」



と。私を見て、漸く我に返った先輩が強張っていた表情を緩める。


柔らかな雰囲気を取り戻した先輩に安堵して、ゆっくりと口を開こうとすると、



「(せ、先輩……あの、)」


「樹生、偶然過ぎだろ!」



言葉は、既に私達の目の前まで来ていた二人に止められてしまった。


 
< 207 / 475 >

この作品をシェア

pagetop