四百年の誓い
 「げっこうき?」


 月姫は復唱した。


 「どうだ?」


 「まるで楊貴妃(ようきひ)みたいな響きです」


 月姫は少々戸惑っていた。


 「月光を浴びるお前があまりに美しくて、思いついた名前だ」


 「私には大袈裟すぎて、ちょっと恥ずかしいです」


 「お前は自分を過小評価しすぎだ。少し自分に自信を持て」


 「ですが……」


 「京女の華やかさも、肥前の遊女のあでやかさも、全て色褪せるような美しさを、お前は持ち合わせている」


 「買い被りすぎではありませんか? 私にそんな」


 頬を薄紅色に染めて、月姫は冬悟から目を逸らした。


 「お前は月のように、これからも私を惑わし、癒し続けてほしい」


 「冬悟さま」


 再度、抱き合う二人。


 月に照らされながら。


 「花も月も、いつしか移ろいゆくものです」


 月姫が口にした。


 「何もかもが変わりゆく定めでも、冬悟さまだけは変わらずいてください」


 「私が? 変わるわけはない」


 「……」


 「たとえどんな妨げが生じようと、私は月姫だけを愛し続ける」


 「冬悟さま」


 「だから……姫も私から離れないでいてほしい」


 「約束します……」
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